技術紹介




第1回  レーザフラッシュ法による熱拡散率・熱伝導率の測定




熱拡散率 と熱伝導率は、熱物性値の中で熱膨張係数と並んで重要な物性値です。

特に熱伝導率の値は
  ・ 省エネルギーのための断熱
  ・ 熱電変換素子のための低熱伝導率の材料開発
  ・ 半導体素子などの熱放散のための高熱伝導率の材料開発
などさまざまな現場で正確な値が必要とされています。

熱拡散率の測定法で最も広く普及している方法が、レーザフラッシュ法です。


熱拡散率と熱伝導率との関係について一言。下記の(4)式に見られるように,熱拡散率に比熱と密度を掛けた値が熱伝導率です。

比熱と密度を掛けた値は体積あたりの比熱に相当し、物質によらずほぼ一定の値をもっています。

したがって熱伝導率は熱拡散率に定数を掛けた値とみることができます。


測定原理

図1(a)に見られるように均質な円板試料(直径1cm、厚さ約1mm)の片面にパルスレーザを均一照射して瞬間加熱すると、裏面の温度変化は一次元の熱伝導方程式により表され解析解がえられ、次式によって与えらます。

       …(1)

ここで、
     TmQ /(LCρ)     …(2)

     Q :試料表面の単位面積が吸収したレーザパルスのエネルギー
     L :試料の厚さ   C :試料の比熱
     ρ :試料の密度   α :試料の熱拡散率
     T :温度   t :パルス照射の瞬間からの時間

(1)式の(T/Tm)を縦軸に、t を横軸にとると図1(b)が得られ、最大温度上昇Tm の半分Tm /2に到達するのに要する時間t1/2を求めると、(3)式より試料の熱拡散率が求められます。(この解析方法をハーフタイム法といいます)

     α=1.370・L2/(π2t1/2)   …(3)

(2)式でQ が正確に測定できれば、(Cρ)が得られ,次の(4)式から試料の熱伝導率K が求めらます。

     K =α (Cρ)   … (4)

しかし実際にQ の正確な測定は困難なために,他の方法によりC およびρを測定して,(4)式より熱伝導率を求めています。

  

  図1 レーザーフラッシュ法の測定原理



標準規格

レーザフラッシュ法による熱拡散率の測定は次のように工業規格に採用されています。
  ① ファインセラミックスのレーザフラッシュ法による熱拡散率、比熱、熱伝導率試験法:JIS R 1611-1997
  ② 電気絶縁用セラミック材料試験法:JIS C 2141-1992
  ③ 熱拡散率測定法:ASTM E 1461


測定条件

 ○ 測定できる温度範囲:室温~1500℃(室温以下の低温は-120℃まで、ただし熱拡散率の測定は熱電対による)
  ○ 測定雰囲気:大気中、不活性ガス中
  ○ 試料の大きさ:一般的に直径1cm、厚さ1mmの円板
熱拡散率の大きい材料(たとえば純アルミニウム、銅、銀など)は試料厚さが厚い方が好都合、反対に熱拡散率の小さい材料(たとえばプラスチックなど)は厚さが薄い方が好都合です。


測定が困難な試料

レーザフラッシュ法による測定では(1)式の理論解が得られる境界条件や初期条件が満足されていなくてはなりません。特に試料は均質で緻密(多孔質でない)であることが要求されます。

したがって繊維や粒状物質の複合材料や積層材料は(3)式をつかって熱拡散率を求めることはできません。一般的に積層複合材や多孔質の複合材料は、定常法による熱伝導率測定をお薦めします。

また0.5 mm以下の薄い試料はハーフタイムt1/2が短くなり、レーザパルス幅に近づく程、精度のある測定は困難となります。

反対に厚さが3 mm以上の試料は裏面温度の上昇が小さく、やはり精度のある測定は困難となります。


測定相談室

質問:

セラミックの熱拡散率をレーザフラッシュ法で測定すると、500℃以上の高温のデータのバラツキと比べて室温でのバラツキが大きいように思われますが、どうしてですか?


窓口:

一概にはいえませんが、一般的にセラミックスの熱拡散率の温度依存性は図2のように室温付近より低温で急に立ち上がっています。

言い換えればほんの少しの温度変動に対して熱拡散率の値が大きく動くことを意味しています。

測定温度が僅かに異なっても得られる熱拡散率の値が異なりますから、毎回の測定の際の測定温度を精密に測ることが必要です。

また(1)式は熱拡散率の値が測定中に一定であることを仮定していますから、できるだけ温度上昇Tを低く抑えて測定すべきでしょう。


    

図2 MgOの熱拡散率(文献値)



出典:金属,Vol.74 No.2 (2004), pp.64-65.