第4回 X線回折の測定
X線回折とは
金属やセラミックスのほとんどは、その構成原子が整然と並んだ結晶を形成しています。
この結晶面に波長λのX線を図1に示すように入射させ反射させると、結晶面ABからの反射X線と第2面の反射面CDからの反射X線(ブラックの法則)とでは光路差2
d ・sinθの違いを生じ、この光路差が波長λの整数倍に等しいとき、次式が成り立ちます。
n λ=2
d ・sinθ …(1)
干渉により反射角θからの反射X線強度は強くなります。この現象を回折といいます。この関係から反射角θと反射X線強度を測ることによって結晶の面間隔dがわかり、解析により結晶構造が解き明かされます。
反射角〜反射X線強度を測定する方法として、現在はほとんど粉末X線回折計(ディフラクトメータ)が使用され、回折線の位置2θと回折線の強度の組み合わせのデータが得られ解析に供せられます。
図1 ブラックの法則の模式図
X線回折による解析法の特長はなにか
@非破壊測定
A結晶の化学組成がわかる
化学組成は同じでも結晶形が異なる場合,結晶形を同定できる。
たとえば,同じSiO
2でも水晶、石英ガラス、トリジマイト、クリストバライトの結晶形は異なる(同質多形)
B混合物の各成分の同定
C回折線強度の解析から各成分の定量分析
D結晶性、結晶の配向性
E結晶の格子定数の精密測定、熱膨張係数の測定、内部応力の測定
など、結晶に関する多くの情報が得られます。
F蛍光X線分析のように元素分析はできません。
したがって未知試料の場合、あらかじめ蛍光X線分析で元素分析をしておくことはよく行われます。
X線回折ではガラスや非晶質物質は得られる情報は極めて限られてしまいます。
X線回折による定性分析(化学分析)
結晶の粉末X線回折図形はその結晶に特有のもので、指紋のようなものと考えられます。
ディフラクトメータで測定した回折図形は、あらかじめ測定された膨大な数の標準物質の回折データと比較して一致するものを求めて未知物質を同定します。
回折線の格子面問題
d と強度
I の値を表にしたデータ集による分析法はHanawaltによって考案されたので、ハナワルト法と呼ばれています。
標準物質のデータを収集する仕事はハナワルト以来、ASTMに引き継がれ、その後、国際的組織 JCPDSに引き継がれ、さらに現在はICDDに引き継がれております。
測定例
図2と図3は化学組成はどちらもSiO
2ですが、図2の石英(水晶)が結晶質であるのに対して、図3の石英ガラスは非晶質のために回折線は見られません。
図4と図5はどちらも水酸アパタイト(Ca
5(PO
4)
3 (OH))ですが、歯の方が結晶が緻密なため、回折図形は図4の骨状物質よりも図5の歯の方がシャープに見えます。
図2 石英(SiO
2)
図3 石英ガラス(SiO
2)
図4 骨状異物
図5 人の歯(乳歯)
図4と図5のどちらも粉末でなくブロック状のため、2θ(
d 値)は水酸アパタイトに一致しているが、結晶が配向しているため、強度比は一致していない。
出典:金属,Vol.74 No.5 (2004), pp.84-85.